11.ありがとう 2019/05/27 (月)

「死に方上手」(岩波ブックレット、鎌田實、山折哲雄、加藤登紀子)


・ばあちゃんは最後に娘に言ったという、「私は雲になるから。ありがとう。」
 あの世に逝く人がいくつもの「ありがとう」の言葉を残した。
 周りのそれぞれが「ありがとう」で見送った。
 簡単に諦めず、病気と闘って3年生きた。
 大事なものをバトンタッチした。
 諦めない人生っていいなぁ。
 とにかく自分らしく、丁寧に、いい人生を送ればいいのだ。
 必ずいい死はやってくる。信じていい。


・美しいものを美しいと思えること、感動する心、
 日々の暮らしの中で積み重ねられる時間の豊かさ、
 そしてそれらを大切だと思えることが本当の幸せであること。


・生きることに夢中になっている。
 その光みたいなものを放射しながら逝くというのは、
 あとに残された者にとってすごく大きなエネルギーになる。




 夫は、昨年5月から6月にかけて毎週末(1泊2日)、くじゅうにミヤマキリシマを撮影をするために登山に行っていました。
宿泊先は、いつものお気に入りの「星生山ホテル」です。
夫は、この時の撮影旅行を契機に体調を大きく崩し、6月19日から7月4日まで敗血症で入院をしました。
この時は血圧が40まで低下して、顔面蒼白となり、唇の色がどんどん白くなって行き、大変危険な状況になりました。
集中治療室に3日間いて、面会時間も午前と午後の決められた僅かな時間(30分間)だけでした。
夫の病状は深刻でしたが、面会に行くといつも笑顔で冗談を言ったりしていたので、きっと退院できると信じていました。


 夫は、長期間、入院するのは初めての経験でした。
ある時、夫は窓辺に立ち空を眺めながら「何にもすることがないって辛いな・・・。」とポツリと呟きました。
そして、「みんなに『ありがとう』って言うようにしているんだ。」と言いました。
また、以前、偶然電車で同席した熊本市内在住の人が「私は1日1000回ありがとうを言うようにしています。」と夫に言ったそうです。
夫はその話を聞いて「すごいな、俺は1000回は言えないけど、1日100回位なら言えるかもしれないな。」と思ったそうです。
それで、これからは1日100回を目標にして「ありがとう」を言うことにしたと、私に言いました。
それからは、私に対しても何かにつけ「ありがとう」とよく言うようになりました。


 夫の最期の看取りの瞬間、私が夫にかけた言葉も「もう頑張らなくていいよ」、「一生懸命生きたね」、そして「ありがとう」でした。
私が夫に会った時には、すでに夫の意識はありませんでしたが、きっと聴こえていたはずです。
人間の聴覚の機能だけは最後まで残るそうですので、夫に「ありがとう」はきっと届いたはずだと私は信じています。


 夫の葬儀は家族葬でした。葬儀が始まる前、私は棺の蓋を開けて夫の頬を撫ぜながら「ありがとう」という言葉を何十回も言い続けました。
何回「ありがとう」と言っても言い尽くせない、心からの感謝の気持ちが次々に湧き上がって来るのを抑えることが出来ませんでした。
夫が「ありがとう」を言い続けた気持ちが、理解出来たような気がしました。


 「ありがとう」という言葉には、不思議な力があります。
「ありがとう」を言った人も、言われた人も幸せな気分にさせてくれます。
そして、感謝の心で満たされるのです。