10.人を動かす交渉術 2019/05/22 (水)

平成19年12月、「人を動かす交渉術」(荘司雅彦弁護士)


・交渉という方法を選んだ以上、常識ある人間として接する。しかるべき敬意を払う。
・相手の主張の価値は理解する。言い分にもそれなりの意味があることは認め、すぐに拒絶したりせずに、しっかり耳を傾ける。
・自分が聴く姿勢を持っていることを、相手にはっきり示す。
・相手を受け入れることによって、コミュニケーションが成り立つ。
・主張をすべて出させる。「以上が、すべてでしょうかと?」と念を押す。
・聴いていると、情報が得られる。
・双方の主張はしっかり理解した、ということを示す。
・相手方との繋がりを探る(とっかかり)。
・交渉ー場所、メンバー、時間など予め打合せ、その決定プロセスに相手を参加させること。
・まず、最初に小さな「イエス」を言わせる。
・権威のある材料をたくさん持っている→イニシャティブをとりやすい。


・ストーリーテリング(物語の重要性)「ストーリーテリングが人を動かす」
・優れたストーリーによってこそ、人を説得できる。
・ストーリーは人生の構図であって、個人的な感情体験の中で理解しようとする願望を満たす。
・心情に訴える、心を揺さぶる。身近な具体例を示す。
・「障害」がないストーリーは、聴き手を強く引きつけない。


・相手を追い詰め過ぎてはいけない。逃げ道は作っておく。
・時間がない時は、手のうちをすべて明かして、YESかNOかを迫る(掛け値なしで・・・)。
・自分の主張を支える理由を予め明確にしておく。
・相手の主張も想定し、反論も考えておく。




弁護士の著書による交渉術なので、とても具体的で参考になる点も多かったようです。
夫は、初対面の相談者の場合は、必ず真正面から相談者の顔と目をしっかり見て、
「弁護士の坂本です。よろしくお願いします。」と自己紹介をします。
まず前半は、相談者の話を30分間程度聴きとりをします。
そして、後半の30分間は細心の注意を払いながら、懇切丁寧にアドバイスをします。
相談者の中には、相談案件とは関係のないことを延々と話す人がよくいます。
そんな時にははっきりと注意して、根気よく話の軌道修正をしながら、
問題点を浮き彫りにして最善の解決策を探っていました。


夫は、裁判官の立場のような第三者の視点で冷静に物事を見つめて、公平に判断してアドバイスをします。
裁判をした場合の見通しの立て方や予測も、あらゆる事態を想定し、考慮したうえで、慎重にアドバイスをします。
決して楽観的なアドバイスはしません。受任した事件については徹底的に調べて、全身全霊で取り組んでいました。


夫は外見は優しい顔立ちで柔和でにこやかですが、信念のとても強い人でした。
仕事は交通事故関連の事件が多く、1日に何件もの交渉事を手掛けていました。
若い頃から、交通事故に関する仕事を数多く手がけていたので、知識も経験も非常に豊富でした。
最新の専門書を読み勉強し、研修会も積極的に参加して、つねに研鑽を積んでいました。
交通事故に関しては誰にも負けないという、エキスパートとしての強い自負がありました。
交渉のテクニックだけでなく、調整能力においても優れた能力を発揮していました。
交渉相手に対しては、この部分だけは絶対に譲れないという点については、
相手がどのように主張しても、決して譲らない芯の強さがありました。


また、人に対する眼差しが温かい人で、人の心をまるごと優しく包み込むような、心が澄んだ清らかな人でした。
私は一時期、夫のことを「生き仏ちゃん」と呼んでいたことがあります。
夫の瞳は微かに愁いを帯び、慈悲深い感じがしていました。
夫は私に「結局、一番大切なことは何かをよく考えなさい。」といつも教え諭すように言っていました。
私はいつも夫に導かれながら、これまでの人生を歩んできたような気がします。
私はこれまでに、夫に諭されて相談者の方が泣き出す場面を何回か目撃したことがありました。
この人にならすべてを打ち明けられる、心を開いて話せる、信じられる、・・・と感じさせるものを備えていた人でした。


数年前、長くお付き合いのあったご高齢の相談者Kさん(夫の父と同年齢でした)が、末期ガンで入退院を繰り返していました。
Kさんは体調が悪い中、いつもふらりと突然、事務所を訪れました。
Kさんは夫の笑顔を見て安心したような顔をしてから、ご自分の体調の話をしたり、何気ない世間話をすると気持ちが落ち着くようでした。
Kさんは、夫が体調が悪いことをご存知だったので、夫ならKさんの気持ちを受止めてくれると感じていたのかもしれません。
Kさんは死期が切迫した厳しい状況でしたが、その時々の心のありようを正直に和やかに語り合いました。
今あらためて振り返ってみると、Kさんは夫と話すことによって心の安らぎを得て、癒しとなっていたのではないでしょうか。


「人を動かす」ということに関しては、夫は本から学ばなくても、自然と身についていた人だったと思います。
人の心の奥底に向かって、優しく温かくストレートに語り掛けるような話し方が、今はとても懐かしいです。
「また、会いたい」、「また、話したい」、・・・と思わせる魅力的な人でした。