208.「ある船頭の話」 2019/11/05 (火)

 11月3日付けの新聞にて、第56回 トルコ・アンタルヤ国際映画祭において「ある船頭の話」が、
最優秀作品賞を受賞したことが発表されました。最優秀作品賞の受賞は、日本映画としては初の快挙とのことです。
受賞の知らせを受けたことも影響してか、劇場内は大勢の観客が押し寄せていました。


 人気俳優のオダギリジョーさんが、長編映画初監督し、脚本も手掛けられたということで大変話題になっている作品です。
先日、オダギリジョーさんが「徹子の部屋」にゲスト出演されていました。
元々、映画製作志望でアメリカの大学に留学したそうですが、英語の理解力不足のため、
誤って演技コースに入学したというエピソードを、苦笑交じりに語っていました。


 撮影監督のクリストファー・ドイルさんの映像美が素晴らしい。
川の水の揺らぎ、山、切り立った岩場、絶妙に変化し続ける空の色、風、雨、霧、木々・・・、
一瞬の美を研ぎ澄まされた感性で見事に捉えています。
ワンカット、ワンカットが、まるで一枚の美しい絵を眺めているような感覚がしました。
オダギリジョーさんの世界観を窮めるために、美しい映像が大いに貢献したと思います。


 映画はオールロケでしたが、何て美しい風景なのだろう、一体どこで撮影したのだろうと
気に懸かっていましたら、新潟県の阿賀町だということが分かりました。
まだ日本には、こんな素朴で美しい風景が残されていることを知り感動しました。


 映画は「ある船頭の話」というタイトルからすると単調な内容かと思っていましたら、
思ってもいなかったような話が次々に展開します。
生き方、死生観、宗教観など、色濃く盛り込まれた重厚な作品となっていました。
演技派の俳優が多数出演されていて、短い出演場面でも印象的なシーンとなっていました。
主演の船頭役を演じられた柄本明さんは、黙って佇んでいるだけでも十分に存在感を感じさせていました。
複雑な感情を胸の内に秘めながらも、自分に与えられた船頭という仕事を飄々と寡黙に勤める日々。
生きることの原点が淡々と描かれています。


 映画のラストシーンは、思い掛けない展開となり結末を迎えます。
そこで映画のタイトルシーンをあらためて思い出しました。
雪を連想させる純白の背景に、流麗な筆字で映画のタイトルが書かれていました。
そこに何故か、椿の花が一輪ぽとりと落ちて、椿の花から血を連想させるような赤い液体が流れ出す、という印象的なシーンでした。
映画の結末、行く末を暗示するような不思議なタイトルシーンでした。


 オダギリジョーさんは、ご自分の描きたい世界観をしっかり持っている個性的な本格派の監督として、
今後は国際的に活躍されるように思います。次回作にも期待したいです。