180.「山懐に抱かれて」 2019/10/05 (土)

 映画「山懐に抱かれて」は、テレビ岩手が24年間という長期間に亘り、丹念に取材して制作したドキュメンタリー映画です。
ナレーションは女優の室井滋さんが担当されていますが、もし樹木希林さんがご存命であったなら、
樹木希林さんの味のあるナレーションで聴いてみたかった、と思わせる良質な作品でした。


 「山地酪農」という、自然で理想的な循環型酪農法に取組む吉塚さん一家は、5男2女の9人の大家族。
理想に燃える父は、強い信念の持ち主。母は大家族をやんわりと優しく包み込みます。
子供たちは、幼い頃から両親が懸命に酪農に取組む姿を見ているので、成人すると迷うことなく酪農の仕事を選択します。


 安心安全な「山地酪農」ですが、一年中、山に牛を放牧し、大地に自生するシバと吉塚さんが栽培した牧草を餌にして、
牛を生育するのは苦労の連続です。労力に見合うだけの十分な収益をあげることは難しいのです。
子供達の成長に合わせて、牧場を広げたいという夢を抱きますが、資金調達が困難を窮め、
結局、夢は実現出来ないでいるという厳しい現実があります。


 吉塚さんの大家族を見ていると、一昔前の時代の家族のような懐かしさを覚えます。
父は威厳があり、一家の大黒柱として一生懸命に仕事をします。
母は笑顔を絶やさず、家族の潤滑油のような役割を担っています。
子供達は働く父の背中を見て、幼い頃からよく働きます。
家族揃っての食事は笑顔が絶えません。
家族の強い絆が感じられます。


 成長した子供が、父の酪農への向き合い方や方向性に疑問を投げ掛けるシーンがありました。
父と子供が真正面から向き合い、徹底的に意見を交わすシーンをハラハラドキドキしながら見つめました。


 吉塚さんは、子供達が幼い頃から「5人(男の子たち)全員を酪農家に育てる」と宣言されていました。
しかし、純朴で素直だった子供達も成長してそれぞれ家族を持ち、自分なりに酪農への夢を抱くようになります。
すべてが父の思い通りには行かなくなります。子供達が成長し、自分で考えて選択した新しい道ですから、
辛抱強く見守ることも親の大切な役割なのでしょう。


 吉塚さんご一家の24年間という長い年月を観ていると、私も吉塚さんや子供達と一緒に泣いたり、笑ったりして、
いつのまにか家族の一員になったよう気分になっていました。
家族全員が助け合って暮らしている姿がとても温かくて、本当に素敵なご家族だなとしみじみ思いました。
ドキュメンタリー映画を鑑賞して、久し振りに心がじんわりと温かくなる良質な作品でした。