102.「茜色に焼かれる」 2021/05/26 (水)

 映画「茜色に焼かれる」は、石井裕也監督の最新作です。これまでにも石井裕也監督の映画は、
良質で満足度の高い作品揃いなので、私が常に注目している監督でもあります。今作品は、
現在の世相を鋭く切り取り、生きづらさや生きることの苦しみを描きながら、夫婦の愛情や
親子の情愛などを見事に描いています。誰もが身近な問題として感じることが出来る作品です。


 主人公は毎日悩み迷いながらも「まぁ、頑張りましょう」と笑顔を浮かべ、自分自身に
言い聞かせるように明るく呟きます。生活はどん底で、家計の遣り繰りに苦労する日々。
夫を交通事故で突然失い、補償金を拒絶し、ダブルワーカーのシングルマザーとして奮闘しています。
内面では心の葛藤が渦巻き、何かのきっかけさえあれば、瞬間的に大噴火しそうな狂気を秘めています。


 石井裕也監督は、「人が存在することの最大にして直接の根拠である『母』が、とてつもなくギラギラ
輝いている姿を見たいと思いました。我が子への溢れんばかりの愛を抱えて、圧倒的に力強く笑う母の姿。
それは今ここに自分が存在していることを肯定し、勇気づけてくれるのではないかと思いました。
多くの人が虚しさと苦しさを抱えている今、きれいごとの愛は何の癒しにもならないと思います。
この映画の主人公も、僕たちと同じように傷ついています。そして、理不尽なまでにあらゆるものを奪われていきます。
大切な人を失い、お金はもちろん、果ては尊厳までもが奪われていきます。それでもこの主人公が最後の最後まで絶対に
手放さないものを描きたいと思いました。それはきっと、この時代の希望と呼べるものだと思います。
今回は堂々と愛と希望をテーマにして映画を作りました。尾野真千子さんが、その身体と存在の全てを賭して見事に
「愛と希望」を体現しています。尾野さんの迫力とエネルギーに心地よく圧倒される映画になっていると思います。
尾野さんの芝居に対する真摯な姿勢には心から敬服していますし、共に映画を作れて、とても幸せに思っております。」と語られています。


 主人公を演じられた尾野真千子さんは「自分にとって最高の映画」と語っています。映画公開初日の舞台挨拶では、
「命を懸けて作りました」と言い、数分間泣いたことが大きな話題となりました。25年間の俳優人生の代表作となる
体当たりの熱演に、鑑賞中幾度も涙が滲み胸が熱くなりました。ラストシーンでは、茜色に包まれ幸福感に満たされました。